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印刷業界の業界課題から読み解く 現代の営業・マーケティング手法とは?

セミナーレポート

2020年2月5日(水)~7日(金)に行われた印刷メディアビジネスの総合イベント『page2020』。リコージャパンはブース出展とあわせて、スポンサーズセミナーを開催しました。講師は、コンテンツマーケティングを中心とした手法で企業を支援する株式会社イノーバ代表取締役社長CEOの宗像淳氏。今の印刷業界にとって必要な、顧客の変化に応じた情報発信や新しいマーケティングのあり方についてご紹介いただきました。

印刷会社のビジネス環境を変化させる要因

印刷会社が今、Webを活用したマーケティングに取り組む意義とは何でしょうか。背景にある一番の要因は、紙の印刷市場が縮小傾向にあることです。これを補う形で、新しい顧客の開拓や、新規事業によって売上をどう作っていくのかということが、印刷会社のビジネスの大きなテーマです。

P1. 印刷業界の構造変化・デジタル化に対応する必要

印刷会社さんとお取り引きしていて感じる、業界の特徴があります。それは、顧客のもとへと通い、ニーズを引き出して受注するスタイルを採っている会社が多いということです。いわゆるアカウント営業、昔ながらの言葉で言いますと御用聞きです。そして受注が決まれば、印刷物の納品に向けて作業を進める必要がありますので、営業の皆さんは多忙です。新しい事業に取り組みたい、でも現在進んでいるビジネスに追われて現場には余力がないというジレンマを抱えている様子が見受けられます。

一方、インターネットの浸透が印刷会社のビジネス環境を変えています。かつて、法人相手の取引は、営業が顧客に提案して受注するという流れが主流でした。今は顧客がインターネットの取り扱いに慣れて、顧客がインターネットやスマホで情報を検索することが、当たり前になっているのです。

P3.顧客の情報収集形態が変化している

この緑とグレーのグラフは、対法人の取引をする1400社に対するアンケート結果をまとめたものです。課題の発生からベンダーの比較、発注までの一連の流れを100%とすると、ベンダーの営業との接触前に行う調査や検討といった行動が57%を占めるという結果が出ています。これは、顧客が自ら情報を集めて比較表を作り、発注先のめどを立ててから初めて営業を呼ぶということが当たり前になっていることを示しています。

印刷会社の使命は顧客のコミュニケーション支援

印刷会社の仕事の本質は、クライアントの情報発信を支援することです。一般消費者や企業がWebを使って情報発信を行うようになったのはごく最近のこと。印刷会社はメディアを通じた情報発信のプロフェッショナルとして、さらに先を見据えて顧客のコミュニケーションを支援していく必要があります。

企業は、対法人、対一般消費者、いずれのシーンにおいてもインターネットを使って情報の収集や発信を行っています。それを支援する印刷会社自身がWeb活用をできていなければ、いわば紺屋の白袴という状態になってしまう。顧客のWeb活用支援の第一ステップとして、自社のWeb活用を積極的に進めることが重要なのです。企業の関心はWebに移っていますので、Web活用提案は、印刷会社の新規顧客開拓にも適しています。売上拡大の施策が必要な事業環境の面からも、自社のデジタル化は必須と言えます。

P4. 印刷企業は企業・エンドユーザーのコミュニケーションを支援していくべき

印刷業の中小企業の中には、デジタル化は余力のある大手企業だけのテーマだと思っている方もいるかもしれません。ただ、実は規模の小さい会社さんにも成果を挙げている事例がありますし、規模に関わらず進めるべき取り組みだと我々は考えています。

Webマーケティングで大企業も引き寄せたトヨコンの事例

次に、具体的なWeb活用の事例をご紹介します。愛知県にある株式会社トヨコンは、社員規模160名程度の物流支援会社。かつては、既存の顧客からのリピート発注と口コミに売上を頼る状況。散発的にテレアポや飛び込み営業を行ってはいたものの、新規獲得による数字があがらないという課題を抱えていました。

施策として行ったのは、顧客が求める情報が充実したWebサイトの整備です。新たにブログサイトを制作し、物流業界で働く人が興味のあるコンテンツを1年間、週に1回更新。その内容は、ロボット活用などのトレンドや、サプライチェーン効率化の方法、人材の問題といった物流業界の関心事。これまでうまく発信できていなかった、トヨコンの強みや事例を伝える読み物型の記事もアップしました。その結果、Webからの問い合わせの数字は11倍に増加。愛知県豊川市の会社でありながら、東京の大手クライアントなど、これまで反応のなかった顧客からの問い合わせにもつながったのです。

マーケティング担当者もいないという状況から、ブログメディアの充実によるWeb経由の引き合い獲得、そしてマーケティングオートメーション運用の整備までを2年で行いました。地方の中小企業でも東京の大企業と同じ土俵で戦えるのが、Webマーケティングの強みだということを示す事例です。

これから必要なのは顧客の情報収集を支援するマーケティング

顧客の行動の変化を示す、ZMOTという言葉があります。これはGoogleが作った言葉で、Zero Moment of Truthの略。ゼロの真実の瞬間という意味です。以前は、First Moment Of Truth、つまり顧客が棚で商品に接触する瞬間が大切だという考え方が一般的でした。ところが、ZMOTの考え方によれば、顧客は、WebサイトやSNSで各種の情報を入手しているため、棚に行く前に勝負は決まっているというのです。

P7. Googleの大規模調査で判明した真実の瞬間「ZMOT」

私たちの購買行動としても、家電量販店に行っていきなり家電を衝動買いするということはほぼなくなり、インターネットで調べてから買うのが当たり前になってきました。当然、企業側のマーケティング施策も、ユーザーが調べたときに情報にヒットすることを狙う発信型に変わりつつあります。

先ほど、多くの顧客が営業を呼ぶ前に自分で調査しているというお話をしましたが、そのとき見る情報源でもっとも多いのが企業のWebサイトで、60%を占めています。また、発注先を選ぶときに候補として選ばれる企業として多いのが既存取引先で、56.1%。注目すべきはその次に多い項目で、情報収集や課題を整理する段階で参考になった業者・企業が、31.5%を占めています。過去に営業された会社も5%です。この数字を見ると、新規開拓でとるべきアプローチが一目瞭然です。顧客は、何か気付きを与えてくれる、自分たちが知らなかった情報を渡してくれるということを、業者選定の基準にしています。トヨコンは、他社は出さないコラム記事で情報を発信することで、専門性や実績を顧客に知ってもらい、納得して発注をしてもらうことに成功しているのです。

P10.BtoBも…アウトバウンド型の営業が効きにくくなっている

顧客は、基本的には、Webサイトに必要な情報を全部載せてほしいと考えています。同時に、問い合わせ後のスピーディな回答も求めています。ただ、問い合わせ後のフォローとしての、商品の売り込みは求めていません。いい情報があればメールで送ってもらって、時間があるときに見たいと思っています。

また、提案段階での専門家としてのアドバイスや事例紹介も喜ばれます。印刷会社は、顧客が自分で能動的に情報を得て選ぶことを支援すること、そして、自社の商品を売り込む前に、まずは専門家としてのアドバイスを伝えられる状態を作っておく必要があるのです。逆に言うと、それができれば、顧客は新しい会社と取引関係を作るのはやぶさかではありません。以前のように1社に丸投げではなく、必要に応じて発注する業者を分けたり、切り替えたりすることが一般的になっています。

優先して発信すべき「お役立ち情報」の中身とは

では、Webサイトをどういう形で充実させれば、顧客の信頼感や問い合わせにつながるのでしょうか。顧客にとって関心があるのは、自分にとって役立つ情報です。企業が伝えたいのは自社が売りたい商品・サービスの情報ですが、今の顧客は、いきなり商品を売り込んでくる企業には腰が引けてしまいます。まずは、信頼を獲得するためのお役立ち情報を発信しなければいけません。

お役立ち情報とは、顧客が抱く課題の解決策です。それは、ひとつめは対面する担当者や課長レベルが感じる業務上の課題。手間を減らしたい、人手が足りない中で業務効率化したいといった現場に寄った課題です。もうひとつは、部長や役員以上が抱く、売上や会社の成長に関する経営課題です。それを知るヒントは、顧客によく聞かれることや、顧客と話す中で感じる困りごとです。そして発信すべきもうひとつの情報は、トレンドです。顧客は、競合の情報や、自分たちが取り入れるべき次の一手を求めています。

また、顧客が欲しい情報は、読み手の購買フェーズによって変わります。情報収集、興味関心、比較検討、購買など、それぞれの段階に応じたコンテンツを制作し、発信していくことが、サイトのアクセス数増加に有効です。顧客の課題解決策・トレンド情報と、自社の商品サービスの情報を自然にリンクさせるストーリーを作り発信していくのが、成功のための秘策です。

P13.自社サイトへの流入数を増やす

コンテンツマーケティングというと難しいと感じるかもしれませんが、要は、顧客に興味を持ってもらえそうなおみやげをWebサイトに載せれば良いのです。昔から、気の利く営業は、新聞や雑誌の切り抜きなど、相手が好みそうな情報を持って訪問していました。それをWebサイトで、すべてのお客様に対して行うのが、コンテンツマーケティングなのです。

まずスタートすべきは名刺の電子化とメール配信

マーケティングを行う上で大切なのが、営業を見据えた考え方です。マーケティングの目的は、営業に結び付けることと受注ですから、営業から逆算して設計することが非常に大切です。今までマーケティングまったくやっていなかった会社が手っ取り早く成果を出すために有効なのが、名刺の電子化です。名刺をデータベース化して、月に1~2回、ホームページの更新情報や最新の事例をメールで配信するだけで、問い合わせが一定数入ってきます。我々が支援したある企業では、4000~5000枚の名刺をもとに資料を配信したところ、初月で15件ほどの商談に結び付きました。

社内に好事例があるのに、情報を整理できていないというケースもあります。そういった会社では、事例や制作物を営業の間では共有できていても、それを顧客に伝えるかどうかは営業任せになっています。まずは、会社が持っている名刺資産を活用し、自社の強みや商品・サービス、事例をコンテンツ化して、定期的にお知らせするという施策を進めることをおすすめします。

中小企業におすすめのコンテンツマーケティングのステップ

メールの配信を続けるうちに、送る情報のネタが切れてきます。商品の案内が増えると売り込みという印象を持たれて嫌がられてしまいますので、顧客に案内して喜ばれるお役立ち資料や読みものを準備する必要があります。それを継続的に行うために必要なのが、Webサイトのコンテンツ充実です。そしてその施策が、サイトのアクセス数の増加や、問い合わせ数の増加につながります。

Webサイトからの問い合わせ数は、簡単な計算で予測ができます。一般的な会社のホームページのアクセス数は、多くて月1000件~2000件程度です。このうち問い合わせにつながる件数は、1~2%です。残りの98~99%の人は、問い合わせをしないのです。Webサイトにコンテンツを増やしたり、資料をダウンロードさせたりといった仕組みを作ると、2000件だったアクセス数が4000や6000になるということも起きますし、問い合わせの確率が上がり件数の増加も期待できます。

とはいえ、そこまで予算をかけられないという会社もあるでしょう。そんな会社がコンテンツマーケティングを始めるためのステップをご紹介します。まずは、できれば最低1名の担当者を立てていただきたいと思います。1人分の人件費を予算として確保していただきたいです。スモールスタートにおすすめなのが、ランディングページの制作とWeb広告施策です。ある印刷会社は、この施策でインターネットから問い合わせがとれたという実績を社内で示し、次の予算確保に成功しています。

ホームページをリニューアルしただけで、アクセス数や問い合わせが大幅に増えるかというとそうではありません。そのため、サイトの改修に予算を使い切ってしまうぐらいなら、戦略商品に絞りマイクロサイトと呼ばれる特設型のサイトを作って、そこからコンテンツマーケティングに取りかかるのもおすすめです。デジタルを活用したマーケティングのノウハウが自社で蓄積されると、同時に、それを活用した商材化もはかれます。自社実践を通じて顧客へ提供する商品ラインナップを増やせるというメリットも、ぜひ押さえていただきたいです。

P14.印刷会社がコンテンツマーケティングを始めるためのファーストステップ

まとめ

実際に皆さんの会社でいかに取り組みを進めていくか、考えていただくときのポイントは大きくふたつあります。ひとつめは、名刺活用です。過去に取引のある顧客や、名刺だけ受け取った顧客へのフォローアップができていない企業には、宝が眠っている可能性があります。

もうひとつは、Webでの集客・商談創出を行うマーケティングの仕組みを整えること。今、印刷会社にとって、新規事業の創出、既存顧客の売上拡大、また他社への乗り換えにどう備えるかといった課題への対応は待ったなしです。眠っている名刺から商談が何件か発生するだけでも費用は回収できますので、皆さんが考えている以上に費用対効果の高い施策だとご理解いただいていいと思います。印刷会社にとって今は、新規顧客は営業が足を使って開拓するものという考え方から、Webを営業ツール化する方向へと移行するタイミングだと言えます。

■講師

宗像 淳 氏

株式会社イノーバ
代表取締役CEO
宗像 淳 氏