補助金を学ぶ
2022/04/08
最新情報&事例を徹底解説!2022年度、印刷会社は補助金をどう使う?
本コラムは、2022年3月9日に実施したWebセミナー・印刷業界Now「最新情報&事例を徹底解説!2022年度、印刷会社は補助金をどう使う?」の内容を元に掲載させていただいております。そのため一部記載内容が2022年3月初旬時点のものとなっておりますのでご留意ください。
印刷会社の皆様にとって、「ものづくり補助金」を中心とした公的補助金の活用は、設備投資のための身近な存在となってきています。一方で、毎年のように申請の要件や枠組みが変化しており、日々情報をキャッチアップするのは大変な労力なのではないでしょうか。
4月から始まった2022年度もまた多分に漏れず、様々な枠組みの改変が実施されることが既に発表されています。本コラムでは、情報をしっかりキャッチアップし、ビジネス拡大に繋がる設備投資を行うたい、という印刷会社様に分かりやすいように、22年度における印刷会社様が活用しやすい公的補助金の変化点や、21年度の採択状況から見える「通りやすい申請」「通りにくい申請」についてお話させていただきます。
<監修/セミナー講師>
株式会社GIMS 中小企業診断士
印刷業界専門コンサルタント
寶積 昌彦 氏
ノウハウの実践方法をまとめた
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2022年、公募予定の印刷業界向け補助金は?
2022年度に公募が予定されている補助金のうち、今回は、印刷会社が設備投資に活用できる「中小企業等事業再構築補助金」「ものづくり補助金」「小規模事業者持続化補助金」という3つの補助金についてご説明します。まずは、これらの概要と、2022年度公募の変更点をお伝えします。
下記の図が変更点なのですが、これだけ見ても1つ1つ読み解くのはなかなか大変ですよね。それぞれの補助金での変更の中で重要なポイントを、カンタンにご紹介させていただきますので順々に見ていきましょう。
小規模事業者持続化補助金の変化点をチェック
最初にご紹介するのが、小規模事業者持続化補助金です。対象は、印刷業も含む製造業では、従業員20名以下の小規模事業者という部分は変化ありません。一般的に「持続化補助金」と呼ばれるこの補助金は、販路開拓に加えて、賃上げや後継ぎ候補者の新たな取り組みといった、環境変化に対応する施策を支援する制度です。21年度の持続化補助金には「低感染リスク型ビジネス枠」という、いわゆる“コロナ対策枠”がありましたが、22年度からはそれに替わる5つの特別枠に変化します。
2022年度公募の小規模事業者持続化補助金におけるポイントは、主に3点です。
まず何よりも大きな変化は、前述した通り新たな特別枠が5つ新設されたことです。その中でも、印刷会社様の活用が検討しやすいのは、事業・販路の拡大とそれに伴う賃金引上げを目的とする「賃金引上げ枠」ではないでしょうか。事業場内最低賃金を地域別最低賃金もしくは現在の賃金の高い方から+30円することを要件として申請できる特別枠です(ただし申請時に従業員がいない場合は対象外)。
また「卒業枠」は、名前の通り補助金の対象である“小規模事業者から卒業する”(※印刷業は製造業のため20人以下が小規模に該当)という意味合いで、従業員21名以上にすることが要件となっています。こちらも会社によっては狙える特別枠かもしれません。
「後継者支援枠」はビジネスコンテントでの入賞が要件とハードルが高く、「創業枠」・「インボイス枠」は印刷会社様の活用可能性が少ないと思われますので、今回は説明を割愛いたします。気になる方はぜひ公式ホームページなどをご覧ください。
https://r3.jizokukahojokin.info/
2つ目も非常に大きな変化点なのですが、新設枠のうち「賃金引上げ枠」・「卒業枠」・「後継者支援枠」・「創業枠」では、補助金の上限額が200万円に引き上げられました。2021年度のコロナ特別枠の上限は100万円でしたので、倍増という形になります。申請要件がやや厳しくなった分、今まで以上に補助金を活用して推進できる新事業の幅は広がった印象です。
3点目は、「賃金引上げ枠」に、赤字事業者に対する優遇措置が設けられたことです。事業が赤字である場合は、補助率が3/4に上がります。これも対象となる印刷会社様にとってはポイントになりそうです。
ものづくり補助金の変化点をチェック
ものづくり補助金は21年度、第9回まで公募が行われましたが、その間少しずつ内容が変わっています。親子会社をひとつのグループとみなすという変更や、3年の間で3回目の申請は受け付けないといった形で、申請できる会社が絞られてきている印象です。そのためある意味で来年度この補助金を初めて申請しようという会社にとっては有利な状況とも言えるかもしれません。
気になる2022年度の大きなポイントはこちらです。
大きな変更点は2つあり、その1つは従業員数によって補助金額が変わることです。これまでは一律上限1000万円でしたが、 22年度からは5人以下の企業は750万円、6~20人の企業は従来通り1,000万円、21人以上の企業は1,250万円という上限金額の区分が設けられました。
またもう1つの大きな変更点は、新しい特別枠の新設です。特徴的なのは、昨今中央省庁を中心に推進を進めている「DX」・「Co2削減(脱炭素)」という2つのトピックに対して特別枠が作られたということです。補助率では通常枠の1/2に対して、デジタル枠・グリーン枠では2/3と大きくなっており、グリーン枠はさらに補助金額の上限も増えています。印刷会社様にも関わりの大きな領域ですので、これらの特別枠での申請も検討できるのではないでしょうか。
赤字企業の優遇措置が新設されたのもポイントです。社員20人以上の企業の補助率は1/2ですが、「回復型賃上げ・雇用拡大枠」という新設枠の補助率は2/3にアップします。
一方で21年度にあった低感染リスクビジネス枠は22年度には無くなりました。持続化補助金同様、コロナ対策の側面が少なくなり、事業拡大・DX・脱炭素などの未来に向けたキーワードに変化していますね。
事業再構築補助金の変化点をチェック
昨年度から始まり、補助金額が多いことから話題になったのが事業再構築補助金です。第4回までが終わり、毎回申請総数の4割程度、8000~9000の会社が採択されています。実は、印刷業ではこの補助金の事例は多くありません。第4回の印刷業の採択数は73件で全体の1%切っています(※株式会社GIMS調べ)。
そんな事業再構築補助金の22年度の変更ポイントはこちらです。
枠組みについては大きな変更は実質ありませんでした。21年度にあった「緊急事態特別枠」は、「回復・再生応援枠」と名前を変えて同じような要件で継続されます。22年度の一発目である第6回では、2021年10月以降のいずれかの月で売上高が2020年・2019年と比べて30%ダウンしていること、が要件となっています。
大きな変更点としては、通常枠の上限額の枠組みが従業員数によって変わることになりました。2022年度実施の第6回から、従業員数100人以下の企業の補助金額が減少します。自社の従業員規模に合わせた補助金額をチェックして申請を検討しましょう。また、新築の建物は基本的にNGになる(理由書が必要)、リース購入が可能になる(リース会社との共同申請)などの変化点も要チェックです。
また21年度にもあった、既に実施済みの取り組みも補助の対象とする「事前着手期間」については期間の見直しが行われます。2021年2月15日以降から、2021年12月20日以降に変更されるため注意しましょう。
以上が主要な3つの補助金の変更点となります。次の章では、採択・不採択事例の検証をしていきましょう!
事例で見る「通りやすい申請」「通りにくい申請」(持続化補助金編)
ご紹介した3つの補助金が印刷業で採択された事例と不採択の事例を参考に、採択の分け目はどこにあるのか、考察を交えてお伝えしたいと思います。
持続化補助金の採択事例(低感染リスク型ビジネス枠)
2021年度に小規模事業者持続化補助金「低感染リスク型ビジネス枠」に採択されたA社はチラシやパンフレットなどの商業印刷を手がけてきましたが、コロナでイベントが中止になりダメージを受けました。そこで、ECサイトの導入による非対面化と、布などに印刷できるガーメントプリンターの活用による紙以外の事業へ転換するという取り組みで申請を行い、採択されました。
B社は、事務印刷、資料出力などの事業を手堅く行っていましたが、テレワークが進んだことでオフィスの印刷物が減少。そこで取り組んだのが、自社の印刷工場の感染リスクを抑えるためのクラウド化とリモートワークの推進です。さらに、クラウドを活用したリモート出力という新サービスを打ち出しました。社内の密の回避と新ビジネスを組み合わせて申請し、採択されました。
これらの事例から見えるポイントは、「低感染リスク型ビジネス枠」ですので、ただ新しいことをやるという内容では申請として不完全で、感染リスク軽減施策と新サービスというふたつの軸をきちんと満たしている必要があるということです。特別枠の場合は特に要件をしっかりチェックし、申請内容で必要な要素の抜け漏れがないように心がけましょう。
22年度の持続化補助金の採択想定事例(賃金引上げ枠)
では、22年度はどのように申請をすればいいのでしょうか。「賃金引上げ枠」で想定される事例についてお伝えします。
ひとつめは、チラシやパンフレットなどの商業印刷を行う会社の事例です。この補助金はまず「販路拡大(事業拡大)」がテーマですから、取引エリア拡大と新規商材投入で事業を成長させるという策を打ちます。その具体的な方法が、ECサイトやガーメントプリンターの導入です。これは先ほどご紹介した昨年度の事例と変わりませんが、何が違うのかというと、それをコロナ対策ではなく成長のために使うということです。そして、事業規模が拡大したら、賃上げまたは増員して分配をするというストーリーです。
次は、オフセットで名刺や封筒の印刷を手がける会社の想定事例です。ネット受注や少量印刷、宛名印刷のビジネスで成長を図るため導入するのが、顧客とのデータをクラウド共有できるシステムや、オンデマンド印刷機です。ポイントは、今までやっていなかったことに取り組むことで事業を成長させると伝えること。効率化によって収益をあげて、賃上げを実現するという流れです。
重要なのは、どんな機械を導入するのかではなく、何のために使うのかという目的が、事業計画に一致しているのを伝えることです。
持続化補助金の不採択事例考察
反対に不採択になった事例から学べるのは、先ほども記載したように補助金の目的と合致していない可能性に留意が必要だということです。21年度の「低感染型リスク型ビジネス枠」では、感染防止と新ビジネスの取り組みの両方が必要でした。生産設備の導入だけではコロナ対策にはなりませんし、コロナ対策設備の導入だけでは、新たなビジネスとは言えません。
22年度公募の賃金引上げ枠では、新しいビジネスで販路を拡大したはもちろんですが、それによる収益に基づいてしっかり賃金引上げを行う、という流れを明確に記載するが必要になるでしょう。
事例で見る「通りやすい申請」「通りにくい申請」(ものづくり補助金編)
ものづくり補助金の採択事例
地域で伝票やチケット印刷などを行うC社は、新しいビジネスとして、偽造防止やセキュリティ対策に取り組むことにしました。ブラックライトで照らさないと印刷が見えないインビジブルレッドトナーを使った偽造防止印刷技術を取り入れる、というものです。そのために、特色トナーに対応した印刷機(POD機)を導入するという事業投資を申請し採択されました。
同人誌の印刷を行うD社は、生産プロセスの改善でネットECを強化することを打ち立てました。EC強化のためには納期や工程の改善も不可欠。そこで、受注・生産管理システムとオンデマンド印刷機を導入し、その組み合わせでプロセスを改善する事業投資を行うというストーリーです。全体のプロセスを改善するという点で、革新性として打ち出すことができました。
22年度のものづくり補助金の採択想定事例(デジタル枠・グリーン枠)
22年度公募において、「デジタル枠」と「グリーン枠」の申請も含めどう対策をするべきか、中小企業庁のものづくり補助金の想定活用例も参考に考えていきたいと思います。中小企業庁は「デジタル枠」の活用例として、店舗への需要予測システム導入と、工場の生産ラインにAIを活用した不良品検知システムを導入するという施策を紹介しています。
「グリーン枠」として紹介されているのが、生産工程におけるCO2削減のため、エネルギー効率に優れた機械を導入する例です。一見、シンプルな取り組みのようですが、ここで大切なのは、炭素生産性をどれほど向上できるか数字で示すことです。付加価値額/エネルギー起源二酸化炭素排出量の計算から導き出される炭素生産性を根拠として付け加えて、申請をする必要があります。
これらの例をふまえて、印刷業界でどのような事例が採択されうるかを考えてみましょう。
「デジタル枠」の想定事例では、まずDXによる改善自動化、生産効率向上という目標を立てます。そして、情報一元管理で作業を自動化するという形で、革新性に対応します。そのための事業投資が、生産管理や自動制御のシステムなど、デジタル化設備の導入です。印刷業界ですでに進んでいるこのようなDXの取り組みで、申請が可能だと思います。
グリーン枠についても、どのように伝えるかがポイントです。炭素生産性の向上という環境効果目標を立て、そのための生産工程改善や、環境対応製品の展開を行っていく。それを叶える事業投資として、生産設備の省エネ化を行い、さらにその設備で、非木材資源用紙の使用や廃棄ゼロといった、環境に優しい事業を展開するという形で申請ができるのではないでしょうか。
ものづくり補助金の不採択事例考察
次に、ものづくり補助金が不採択されたときの採択員のコメントをご紹介します。
不採択の理由として多いのが、革新性がないことです。ふたつ目は、価格・性能面における優位性がないこと。他社と比較して優れていることが書かれていないと、不採択を受けます。3つ目は、単なる設備導入だと判断されてしまうこと。収益計画が不透明、市場ニーズを設定できていない、などの不採択コメントもあります。
ものづくり補助金には、革新性というテーマが不可欠です。この革新性の中に、事業性があります。事業性とは、実現可能性があるかどうか、ほかと比べて勝てるという優位性があるか、そして収益性があるかということです。この3つを抑えた上で、デジタル枠やグリーン枠に必要な要件を書けば、不採択を回避できるのではないかと考えています。
事例で見る「通りやすい申請」「通りにくい申請」(事業再構築補助金編)
事業再構築補助金の採択事例
最後に、事業再構築補助金の採択事例をご紹介します。商業印刷が中心のG社はコロナの影響で売上が減少。紙以外の分野へ展開していくため、ガーメント印刷やレーザー彫刻の導入を含む工場内の環境整備を行ってノベルティ分野へ事業展開していくという、非常にわかりやすい事例です。
イベント関係の印刷物が減少したH社は、公的な発送物や通知関連印刷に新たに取り組むため、オンデマンド印刷機による可変印刷の実現や、それに伴うセキュリティ強化など、場内環境への事業投資をしました。このケースは、単純に印刷機を入れたという形ではなく、それに必要な工場内の設備入れ替えも行うというところがポイントです。
事業再構築補助金の不採択時コメント考察
事業再構築補助金の不採択のコメントからわかるのは、「よりよい」「ためよい」「するとよい」という言葉に注意すべきということです。
たとえば、「事業化に至るまでの遂行方法及びスケジュールの妥当性が記載されているためよい」というようなコメントがありますが、「ためよい」が使われているときは、その内容で問題ないということです。
「よりよい」と指摘されているのは、申請条件には足りていないので補足すべき内容です。「するとよい」は、これではダメだということですので、書き直す必要があります。「よりよい」「するとよい」という言葉でコメントされた内容を修正すれば、次の申請で通るケースが多いです。一度不採択になっても諦めずに、コメントから学んで内容を修正し、再度申請しましょう。
まとめ
国が発表している「産業競争力強化法における事業適応計画」からは、国が「成長発展事業適応」と「情報技術事業適応」と「エネルギー利用環境負荷低減事業適用」の3つに今後、注力することがわかります。補助金を活用されたい皆さんが今後、事業を構築される際には、ここで挙げられているデジタル化やCO2削減というテーマから、着想を得ていただくと良いと思います。
補助金は、コロナ禍における企業のチャレンジを後押しします。新ビジネスや事業拡大を成功させるために、2022年度、ぜひこれらの補助金を活用しましょう。
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