
補助金を学ぶ
2025/10/31
<寶積先生に聞く!>POD機導入に使える2025年補助金:東京都編 其の4:設備投資に使える手厚い東京都独自の支援制度
これまでは全国の補助金制度について紹介してきました。一方で地方公共団体、すなわち都道府県や市区独自で実施する補助金制度というものもあります。特に東京都は税収6兆7,423億円(令和6年度)と絶大な財政力を誇ります。また、一般会計予算の総額は9兆1580億円。特別会計などを含めた全会計の総額は17兆8,000億円!これはスイス14兆7,000億円、スウェーデン20兆円などの国家予算規模だそうです。
このような中、東京都独自の補助金も多く打ち出されています。そこで今回はPOD機導入に使える東京都独自の補助金を4つご紹介したいと思います。
ノウハウの実践方法をまとめた
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1. 事業環境変化に対応した経営基盤強化事業(事業環境変化補助金)
昨年スタートした「新たな事業環境に即応した経営展開サポート事業」の後継制度になります。この制度では、一般型(中小向け)と小規模(小規模限定)の2つの制度が用意されています。補助額は一般型が800万円、小規模型は200万円(いずれも補助率2/3)というPOD機導入に適した金額です。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 補助対象事業 | 既存事業を深化・発展させる事業 |
| 補助対象者 | 直近期売上高が2023年の決算期と比較して減少、または直近決算期が赤字の都内中小事業者 |
| 補助額(補助率) | 一般型800万円/小規模型200万円(2/3) |
| 審査方法 | 書類審査に加えて面接審査(小規模型は書類審査のみ) |
| 設置場所 | 東京都本社の会社が首都圏(神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木・茨城・山梨)の工場へ導入することは可能 東京都内支店への導入も可能 |
補助対象事業の要件にある「深化」、「発展」とは具体的にどういうことを指しているのか、少し分かりにくいかもしれないので補足説明します。
「深化」は既存事業の延長線上で行うイメージです。具体的には、従来と提供する印刷物は変わりませんが工程管理やDX化などでプロセスをより良くするなど。リコーが提供する「小さなDX」の導入などは「深化」の累計に近い形ですね。
「発展」は既存事業のノウハウが活きる新事業のイメージです。具体的には、デザインや印刷のノウハウを活かして紙から布の印刷をするなどが挙げられます。
ここにPOD機などの設備導入が対象となります。
事業計画書はエクセルシートへの記載を行うシンプルな内容で申請書作成のハードルは高くない感じです。ただし一般型は面接があります。これは15分の事業説明を行った後に質疑応答があるなどやや負荷が高そうなイメージです。なお、小規模型の面接はありません。実施はそれぞれの制度がたすき掛けの形で2か月に一度の頻度で締め切られます。
2. 省エネ型VOC排出削減設備導入促進事業(VOC補助金)
オゾン層破壊の要因として挙げられるVOC(揮発性有機化合物)。印刷業界は塗装業に次いでVOC排出が多い業界です。そのため、この補助金はVOC排出を抑制する設備の導入を支援するものとなっています。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 補助対象事業 | VOC排出を抑制・削減する設備を導入する事業 |
| 補助対象者 | 作業工程でVOCを排出する都内中小印刷会社 |
| 補助額(補助率) | 1台あたり2,000万円(2/3) |
| 審査方法 | 書類審査 |
| 設置場所 | 東京都内事業所のみ対象 |
もうすこし詳しく対象となる事業をご紹介しましょう。
申請の対象者がVOC排出を行う印刷会社であるため、具体的な申請としてはオフセット印刷からデジタル印刷へ移行する際の活用が想定されます。オフセット印刷工程で使用するインキや洗い油等から発生するVOCをデジタル印刷により削減(トナーはVOCゼロ)するというものです。申請方法は3年間のVOC排出を、①資材の購入履歴、②資材のSDS(Safety Date Sheet)で計算し効果を示します。
一方で、Q&Aによるとデジタル印刷機の増設を行うものや、オフセット印刷工程の業務を一部移管する事であった場合でも総合的にVOC削減に寄与するようであれば申請が可能とのことです。POD機導入にとって、申請しやすい制度ではないかと思います。
3. 明日にチャレンジ中小企業基盤強化事業助成金(明日にチャレンジ補助金)
この制度も10年以上継続して実施している制度です。特徴としては、他の会社から仕事を受注する際に必要となる新たなノウハウや技術のために入れる設備を補助する点です。ざっくり言えば儲けよりもどんな技術を導入して受注を強化するか、という点を重視しているという事になります。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 補助対象事業 | 技術・サービスの高度化・高付加価値化のための技術開発の支援 |
| 補助対象者 | 都内の受注型中小企業者(BtoB取引を行っている会社) |
| 補助額(補助率) | 2,000万円(2/3) |
| 審査方法 | 書類審査に加えて面接審査 |
| 設置場所 | 東京都本社の会社が首都圏(神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木・茨城・山梨)の工場へ導入することは可能 |
POD機導入においても、受注のために必要な技術課題があれば申請可能です。採択の実績もあります。具体的には、新たな素材・用紙への印刷や、カラーマネジメント、リモート環境での生産など、技術向上が図られるものであれば対象になります。
注意点としては、BtoB取引が必須となっているので消費者から直接受注している会社は対象とならない点が挙げられます。
どのような技術に困っているのか、それをPOD導入などでどのように解決するのか、この点を明確にする必要があります。単なる設備投資に終始しないように注意しなければなりません。
4. 躍進的な事業推進のための設備投資支援事業(躍進事業補助金)
補助金額が最大2億円という超大型の制度です。そのため小型POD機単体というよりも大型インクジェット印刷機や複数台での生産ラインの構築などの申請が想定されます。躍進的という名称が表している通り、設備投資により売上・利益を大きく成長させる計画が求められます。
| 項目 | 要件 |
|---|---|
| 補助対象事業 | 競争力強化や生産性向上に必要となる機械設備の支援 |
| 補助対象者 | 都内中小企業者(都内に支店登記がある中小企業者) |
| 補助額(補助率) | 最大2億円(補助率4/5~1/2) |
| 審査方法 | 書類審査に加えて面接審査 |
| 設置場所 | 東京都本社の会社が首都圏(神奈川・千葉・埼玉・群馬・栃木・茨城・山梨)の工場へ導入することは可能 東京都内支店への導入も可能 |
高額な補助金ということもあり、10年の収支計画作成で投資回収を想定させるなど他の補助金にない仕組みになっています。なお、省エネ効果の評価や賃上げによって補助率がUPするなど多彩な申請方式が用意されているのもこの制度の特徴です。
5. 東京都補助金における違いとポイント
同じ東京都の制度なのですが、それぞれの制度でルールが異なる点があります。ここでは簡単に制度の違いなどの注意点を挙げておきます。
① 設置場所の違い
補助金で導入する設備の設置場所の要件ですが、それぞれの制度により異なります。
| 事業環境 変化 補助金 |
VOC 補助金 |
明日に チャレンジ 補助金 |
躍進事業 補助金 |
|
|---|---|---|---|---|
| 東京都内への設置 | 〇 | 〇 | 〇 | 〇 |
| 東京本社で設置場所が首都圏 | 〇 | × | 〇 | 〇 |
| 都外本社で設置場所が都内支店 ※ | 〇 | × | × | 〇 |
- ※都内に支店登記(2年以上経過)している必要があります。
② 工場認可の取得
東京都補助金の特徴の一つに、制度によって工場認可の提出を求める点があります。提出に関する要件もそれぞれの制度で異なります。
| 事業環境 変化 補助金 |
VOC 補助金 |
明日に チャレンジ 補助金 |
躍進事業 補助金 |
|
|---|---|---|---|---|
| 工場認可の提出が必要 | × | 〇 | × | 〇 |
- ※VOC補助金・躍進事業補助金において設置場所の工場認可が不要な場合は自治体に不要である旨確認したことを記載(殆ど認められませんが・・・)
- ※工場認可とは
都の環境確保条例では「定格出力の合計が2.2kw以上の原動機(モーター)を使用する物品の製造、加工又は作業を常時行う工場」においては工場認可の届け出が必要とされています。ただしこの規定は都以外で異なる場合もありますので、具体的には所管自治体の環境課などへお問い合わせください。
③ 提出方法
提出方法についても違いがあります。書類申請で提出する場合とJgrantsによる電子申請に分かれます。
| 事業環境 変化 補助金 |
VOC 補助金 |
明日に チャレンジ 補助金 |
躍進事業 補助金 |
|
|---|---|---|---|---|
| 申請書の提出方法 | Jgrantsによる電子申請 | 書類郵送 | 書類郵送 | Jgrantsによる電子申請 |
- ※VOC補助金は締め切りがなく随時受付(予算満了次第締め切り)
6. まとめ
いかがでしょうか。東京都独自の制度でもPOD機導入時に活用が可能だという事がお分かりいただけたのではないでしょうか。
でも会社ごとにどのような制度が向いているのか、まだまだ不明な点も多い。そういったお悩みに対しリコージャパンでは個別相談会を実施し、各社に最適な制度についてアドバイスを行っています。是非リコージャパンの担当者へご相談ください。
- ※ただし無料の個別相談会はPOD機などのリコー製品を活用いただく場合に限りますので、ご注意ください
本コラム筆者

株式会社GIMS 中小企業診断士
印刷業界専門コンサルタント
寶積 昌彦 氏
立命館大学卒業後、ハマダ印刷機械株式会社入社。
各種印刷機、CTP等関連機器等多岐にわたる機械の営業担当を経て、営業管理・推進業務を担当。市場調査や製品開発企画とプロモーション、仕入商品・部材の調達管理や販売・製造台数の予測などの業務に従事。
その後、グラビア印刷会社の朋和産業株式会社に入社し、大手コンビニエンスチェーン、大手カフェチェーンの軟包材の営業を担当後、中小企業診断士として独立。独立後は公的機関の委嘱による中小企業支援を行う傍ら、印刷業界専門のコンサルティングを行う株式会社GIMSにも参画し印刷・製本会社の経営支援に従事している。






