<印刷会社とメーカーの共創>「印刷革新会」が目指す自動化構想とは(後編)

<印刷会社とメーカーの共創>「印刷革新会」が目指す自動化構想とは(後編)

2022年2月4日、東京・池袋でpage2022が開催されていた中、同じ東京で印刷会社とメーカーの新しい共創の形として「印刷革新会」の発足を発表する会見が行われました。

参加したのは、印刷会社から(株)クイックス、佐川印刷(株)、(株)正文舎の3社。そして印刷関連メーカーからは、(株)JSPIRITS、(株)ホリゾン、リコージャパン(株)の3社。

印刷革新会の狙いは、参加した各社が共通で描く「デジタル印刷自動化の理想像」の実現を目指すというもの。

印刷会社3社がお互いに学び合いながら実務レベルで取り組み、その過程で必要となる様々なソリューションを各メーカーから購入・活用、開発が必要となれば適宜取り組みながら、理想像の実現を目指していきます。自動化において得意分野を持つ印刷会社3社が実務実践するため、ここから育つ様々なソリューションや仕組みが、今後メーカーを通じて業界に還元されることも大いに期待できます。

今回はこれからの印刷会社とメーカーの新しい取り組みである印刷革新会について、記者会見の内容を全文書き起こしで、前後編にてお届けします。後編は当日の質疑応答を中心に、各社からのメッセージをお伝えします。

前編はこちら:<印刷会社とメーカーの共創>「印刷革新会」が目指す自動化構想とは(前編)

<登壇者のご紹介>
株式会社クイックス 代表取締役社長 岡本 泰氏
佐川印刷株式会社 代表取締役社長 佐川 正純氏
株式会社正文舎 代表取締役 岸 昌洋氏
株式会社JSPIRITS 代表取締役 地代所 伸治氏
株式会社ホリゾン 取締役 戦略企画本部長 衣川 竜二氏
リコージャパン株式会社 PP事業部長 三浦 克久

ノウハウの実践方法をまとめた
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目次

3社のネットワークの構想という話が出ましたが、詳しく教えていただきたいです。それぞれの会社で投資をされるということですが、どのように分担されるのでしょうか?

岡本:まず投資の分担という話は、それぞれ得意なところ、リコーであれば正文舎、PrintSapiensであればクイックス、ホリゾンのiCE LiNKであれば佐川印刷です。反面、得意じゃない分野もあって、例えば正文舎さんであればMISですね、PrintSapiensを導入してさらに自動構想に近いMISをやりたいということで、そちらの分の投資をされます。クイックスは、実はiCE LiNKは全く運用してません。iCE LiNKのことについてはお二人にお伺いしながら、特に佐川さんはものすごく進んでいますので、佐川さんに教えていただきます。そしてBatchBuilderは岸社長に教えてもらうという感じです。

佐川さんのところは、特にRPAやBatchBuilderを、岸社長にお伺いしながら投資をしています。3社とも得意なところとそうでないところがある。そうでないところが、他2社の得意なところなんです。お互いが経営者としてしっかり検討したうえで、それぞれの強みを互いに享受しながら設備投資をするということです。ネットワークのことについてはお二人にお話ししてもらいましょう。

:僕の説明の中でもお話しましたが、例えば単品損益の概念は経営者としては持ってましたけど、社内で浸透しきれなかったところがあります。そういったことを私自身が自分の社員に言うだけでなく、例えばですけど岡本社長や佐川社長を会社にお招きして、社員に教授してもらうことも考えています。

投資という部分では、どうしても設備投資=お金(の問題)と捉えられがちですけど、いろんなデバックが必要になってきますので最初はうまくいかないんですよ。要するに時間や労力の投資でもあります。そういったことも含めた投資(の連携)と理解していただければと思います。

佐川:いろいろな業界でネットワーキングというと、物理的なやりとりが鍵になることが多いと思います。先ほど申し上げたように、人的なネットワーク、私たち3人がそもそも仲がいいので、実務者の人も毎週協議し合っている。そうすると実務者のネットワーキングができると思うんです。そんな中で「お前のところの会社どうしてるの」「俺の会社はこうしてるよ」と既に協議しあっています。そうすると社長の立ち位置から見えるものと、実務者の部長から見える世界が違うので、お互いが教え合うような関係が既にできている。これからこの正式な活動が働きますと、現場の交流もはじまると思いますので、弊社がやっているデータ管理については、見積を出す、フルオープンで受注入力をするJDFを発行する。 そうしたらその原価はどうなってるのっていう答えが出てくると思うんですよね。それを他の人たちから見ていただいて、佐川さんこんな風にやってるけど本当はもっとこうやったら社員教育につながるよという交流もできるのではないかと思っております。

弊社は既にiCE LiNKを今一緒になって立ち上げておりますが 、私どもだけで思いつくことは限られています。今回新たな仲間が加わることで、私たちが気づかなかったような新たな視点に気づくことができると考えています。

デジタル印刷工程の自動化ですので、既に印刷だけだったら自動化できているわけですが、今回は全体のシステム、絵に描いたスマートファクトリーの実装がこの3社の中で出来上がってくるというのは、日本の印刷業会にとっても大きな試金石になるのではないかと思っております。

左から(株)正文舎 岸社長、(株)クイックス 岡本社長、佐川印刷(株) 佐川社長

左から(株)正文舎 岸社長、(株)クイックス 岡本社長、佐川印刷(株) 佐川社長

これから成果が上がってくる成果の情報発信方法についてどうなるか?また自分も参加したいという方が参加するための資格はあるか?

岡本:まず情報発信について。基本的に印刷革新会はメーカーさんにお金を出してもらうのではなく、自分たちでまず実践することで、これからもメーカーさんにどうメリットになるのか、という考え方です。ですから、情報発信を僕らがするというよりは、メーカーさんにここで開発された商品を拡散してほしいわけです。今回チラシを作ったような点で、各印刷会社も情報発信についての協力をしていきます。実はクイックスはPOD機のメインはリコーさんじゃないんです(笑)。しかし今回の構想で生まれたネットワークの事例としてクイックスを使っていただくことはもちろん良いですし、弊社の一室をショールームのようにして、全国のリコーのお客様をお招きして見ていただくようなことは惜しみなく協力したいと思っています。メーカーさんの売上拡大のために僕ら印刷会社は何ができるのかというところは考えていて、そういう情報発信になるかと思います。参加資格は…岸社長どうでしょう(笑)

:参加資格は全く何も考えていませんでしたが、この3人に共通していることが、「個社がよければそれでいい」という考えの人が大っ嫌いなんです。社員もそうです。お二人ともその根底があるので、そういう人であれば良いと思います。お二人の面接に受かればいいんじゃないですか。

一同:(笑)

佐川:進めていく中で新たな知見が必要な場合もあるので、仲間を増やすことも考えています。チラシにThink Digital, Act Analogと記載していますが、やっていることはデジタルのことなんですが、心と心が通じ合う仲間づくりをこれからもしていきたいと思います。お互いが自分たちの技をオープンにしてwin-winになっていくような関係を、メーカーさんともこの3社でも築いていきたいです。そういう仲間が増えていくことを私は期待しています。この輪が繋がって、広がっていくといいなと思います。だから、参加資格は明確にはないですが、強者が入ってきてくれればなと。

岡本:多分この3社の中に入りたいと思う印刷会社はないんじゃない(笑) 僕らは当然ビジネスをやっていかなきゃいけない。大きい会社の営業マンは数字を上げないと出世できない。だから数字を上げる、数を上げるで、ビジネスに徹するわけですよね。でも、それをやってきて印刷会社はダメになっているので、それを変えていきたいんです。僕ら3社に共通しているのはそれぞれの会社さえ良ければいいということではなく、それぞれの会社がやれることをやって、業界全体を変えていくという想い。まずはメーカーさんに印刷業界に振り向いてもらわないとダメだし、その向こう側に全体がハッピーになることをやらないといけない。

佐川社長からもありましたが、誰を幸せにするビジネスかと言ったときに、第一にお客様と言いたいですが本当は社員ですね。社員が喜ぶ会社をどうやって作るのか。次にお客様に喜んでもらう。もう一つはやはり仲間なんです。仲間はJSPIRITSさんであり、ホリゾンさんであり、リコーさんである。PODだけじゃなくてオフセット印刷機も将来的には自動化構想を考えていきたい。そのときにメーカーさんにとって印刷業界が魅力的な業界でなければ、メーカーさんの社員も「俺らの仕事楽しい」とはならないわけです。そういう考え方の人じゃないと会には入れないですね。なかなか信用されない部分ではあるんですが、本当に僕らは自分の会社さえ良ければいいと思っていません。本当に業界全体が良くなればいいと思っているところが、非常に大きな3人に共通した原動力になっているのです。そこが一番大事だと思っています。

左から(株)正文舎 岸社長、(株)クイックス 岡本社長、佐川印刷(株) 佐川社長

左から(株)正文舎 岸社長、(株)クイックス 岡本社長、佐川印刷(株) 佐川社長

ですので、メーカーさんにお金を出させるという考えの方はそぐわないのでお断りをします。「印刷革新会」という名前ですが、本当は「印刷業界革新会」なんですよね。そういう考え方で自分もちゃんと投資しますと、上澄の良いところだけ掠め取っていくのではなく、自分たちも血を流すつもりがあるということであれば、入っていただきたいです。

メーカーさんも希望いただければ入っていただけますが、ただし、そこにも条件があります。技術的な鍵になっているのはJDFなんです。言い方を考えなければいけないですが、日本標準を作ろうというつもりはないんです。どうしてもDX、自動化ということになると、世界と日本でガラパゴス化する危険性があるので、グローバルの視点で今回の動きを牽引したいというメーカーさんもいらっしゃると思います。僕らは世界を相手に自動化の仕組みを販売していくというつもりはないですし、とりあえず日本の業界をなんとかしたいという思いでやっている。将来的にテクノロジーが進んでいけば、世界に通用するものになるんじゃないかという一縷の望みは持ってはいます。ただ、これでビジネスをしようとは思っていないので、世界戦略云々ということは考えていないです。まずはJDFの標準を作るという、目の前のことをしっかりやっていこうと思っているので、その考えであれば、一緒にやっていただきたいと思っています。

佐川:今日も開催されていたpageのブースを見ますと、ホリゾンさんはPODと加工機械の連携の例がありました。ですが、あれが我々の会社でそのまま活用できるかというと疑問に思われますよね。私たちは実際の仕事での実現を目指してしていくわけで、その際にいろいろな課題がでてくるかもしれません。これまで取り組んできて、一定のレベルまでできている自負はありますが、そこからさらに進化するには少し違う血を入れないと、純血主義でやっていてもそれ以上のことはできないんです。実は今回参加しているホリゾンさん、JSPIRITSさん、リコーさん、そして印刷会社3社でも、それぞれに考え方も少し違うんです。根っこは同じなんですが、ちょっとずつ得意技や考えていることは違う。でも根っこは仲良しなので、真剣に話し合うことで議論ができる。そういう中でこそ、新しいことは生まれていくんじゃないでしょうか。

リコーさんとはインクジェット部門で、大企業のジレンマと中小企業のリソース不足をお互いの力で埋められないかというオープンイノベーションの取り組みをしています。イノベーションはオープンなところに生まれると思います。異質なものがぶつかりあったり、アイディアを出し合ったり。こういうことが今回もできるんじゃないかと。私がよく使う言葉で「早く行きたいのであれば1人ですぐにそこに行け、遠くに行きたいのであれば、仲間と一緒にやっていく必要がある」というのがあります。夢を実現するために、業界の持続可能性を実現するために、業界の将来を作るために、この3社がイノベーションを起こすというイメージでとらえていただいたら腑に落ちやすいのではないかなと思います。手前味噌ではありますが、それぞれが自社でやっていることは業界では進んでいる方ではないかと思いますが、さらに進めていくために集まったということです。

BatchBuilderとiCE LiNKの連携について、BatchBuilderがPODの稼働状況を吸い上げて、iCE LiNKのダッシュボードで可視化するというイメージですか?

衣川:それは(今まさに)課題としているところです。 BatchBuilderから受けた情報をiCE LiNKで表示することをやろうとしています。そしてiCE LiNKを通じて、PrintSapiensに実績を返すという形です。

岡本:もうひとつは日報登録なんです。作業者の時間管理ですね。iCE LiNKでどこまでカバーするかというとオーバーラップする部分が出てくるんですが、BatchBuilderを使って、リコーのPODの稼働時間はわかるんです。一方、日報はどうやっていくかというと、入力するエントリーはリコーさんのシステムを使った方が良いかもしれないのですが、それを吸い上げてPrintSapiensに単品での時間管理をやるとなると、iCE LiNKを介して一旦まとめた方がいいのかもしれないし、直で返した方がいいのかもしれない。これはまだ開発ができていないので、この先どのように組み合わせていくか、MISのあり方にも影響してくる部分だと思っています。工程管理は機械と人と両方意味がありますから、機械のことだけなら可視化で十分なんですが、それでは単品損益の算出ができないので、BatchBuilderを使って人の労働時間をどうやって把握するかということを考えたいと思っています。

佐川ひとりで3台も4台もデジタル印刷機やデジタル加工機を扱うということになると、機械をトラッキングしただけでは正確なデータが出てこないんです。人が何をしたかということが非常に重要。これが岡本社長の言われる単品損益で、どの人の原価をどこに入れるかを、iCE LiNKでトラッキングできるようしていきたい。ただ、後工程の分野に対して今はやっているのですが、PODの分野も含めてやったことがあるわけではないので、今後そういうことを目指していきたいと思っています。PODが後加工機と何が違うのか、一体化してきているので、ここの扱いをどうするかは私も新しいことに取り組めるとワクワクして、期待している部分です。

(正文舎様は)デジタルプリントファクトリーは自社開発のMISから完全に PrintSapiensに移行して運用するのでしょうか?

:その予定です。

岡本:最近ですよね。この構想が出たときに、我々2社が使ってるのでもうPrintSapiens入れるしかないよねという話になりました(笑)

佐川:正文舎さんを見学させていただいて、素晴らしいMISを作られています。そこまでやられている正文舎さんですから、PrintSapiensも早く立ち上げられるのではないかと思います。

岡本:現場は大変だけどね(笑)

オンライン配信の様子

オンライン配信の様子

佐川:KamiSapiensは地代所社長の地元の北海道では2社立ち上がっています。用紙マスターは作るのがすごく大変なんです。だから、すでに登録したものを活用出来るとか、良い面もありますよね。工場の中だけの話になりがちですが、仕入れ先とそれをやっている会社は少ないので、実現できるようになるということです。大きなメリットが生まれるのではないでしょうか。

:先程の投資という部分では、(現在は)構想図にあるものを物としてもクラウドとしても買ってきて繋げているというイメージじゃないですか。今回はそうではないんです。PODのJDFの無人化もやっていますが、聞こえはいいけど立ち上げって結構大変なんです。これから3社さんにご協力いただくのは、今までやったことがないことを、聞こえは悪いですが我々がモルモットになって、デバッカーになりますと。デバッカーなんて普通やりませんからね、普通クレームですよ(笑)なんで所定通り動かないんだと。でもそうではなくて、これはお金では買えない投資だと思っているので、ぜひお伝えしておきたいと。

「JaGraや全印工連とも連携して業界全体に発信していきたい」

岡本:最後に1つ。今回の自動化構想でやるプロジェクトは日本グラフィックサービス工業会(JaGra)で来年6月から生産性向上のためのDX委員会が作られる予定なんですが、そことも連携して今後一緒にやっていきます。JaGraの中のいろいろな施作で、この自動化構想図で目指すシステムを業界に広めていくこともやっていこうと考えています。

先ほど情報発信の仕方ということがありましたが、日本の印刷会社さんにはJaGraや、3社ともメンバーの全印工連と連携をしていく部分もあると思います。印刷会社さんに向けてこんなやり方あるよ、あんなやり方あるよという情報発信を行う面でメーカーさんのお手伝いができますし、そういう考え方が広まっていけば業界全体がより良くなると考えています。そういったことを、将来的には実現していきたいと思っています。

前編はこちら:<印刷会社とメーカーの共創>「印刷革新会」が目指す自動化構想とは(前編)

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