豊富な事例から学ぶ 印刷会社がSDGsに取り組む2つのメリットとは?

豊富な事例から学ぶ 印刷会社がSDGsに取り組む2つのメリットとは?

最近私たちの身の回りで浸透しつつある「SDGs」という言葉。町のあちこちで、カラフルなSDGsマークを見かけることも多くなりました。

印刷会社の皆様の中には、
「関心はあるけど、どこから手をつければいいのかわからない」
と感じている方もいれば、
「うちのような小さい会社で取り組める環境問題ってあるの?」
「最近よく聞くCSRやESGと何が違うの?」
「目の前のビジネスに集中しなければならず中々活動ができていない…」
などと思っている方もいるではないでしょうか。

SDGsとは、単なる社会貢献活動ではありませんし、また、単なる環境保護運動でもありません。今後SDGsへの取り組みを疎かにしていると、人材採用や取引関係に悪影響を及ぼす恐れがあります。また、ビジネス機会創出や企業価値向上にもつながるため是非積極的に捉えて取り組んでいきたいものです。

そこで、Print Compass編集部では印刷業界におけるSDGsの普及活動に積極的に取り組んでいる、一般社団法人日本印刷産業連合会(以下 日印産連)のサステナビリティー推進部部長・山本 正己氏にインタビューさせていただき、SDGsの基礎から印刷会社様が実際に行われている取り組み事例、また、印刷会社の皆様がSDGsに着手するためのヒントなどをうかがいました。

■取材協力

山本正己氏

山本正己(やまもとまさみ)
一般社団法人日本印刷産業連合会
サステナビリティー推進部部長

ノウハウの実践方法をまとめた
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目次

1. SDGsに取り組んでいる企業の事例紹介

――最初に、印刷会社がSDGsに取り組んでいる事例をいくつか教えていただけますか。

山本氏:つい先日、私たち日印産連の主催で、印刷産業による地方創生事業の事例発表会「じゃぱにうむ2023」が開催されました。そこで発表された、香川県の「北四国グラビア印刷」様の取り組みはSDGs的な観点からも面白いものでした。

同社では、香川県観音寺市の蒲鉾(かまぼこ)を中心とした水産加工業を、印刷技術によって盛り上げようと、様々な取り組みをなさっています。
その一環として蒲鉾のパッケージにもいろいろな工夫を凝らしているのですが、同一の蒲鉾商品について、12種類ものパッケージデザインを考案し、デジタルプリンティングでの少数ロット生産を実現していることもその1つです。
パッケージフィルムの印刷は、通常、万単位のロットになります。そうすると、発注元ではどうしても余裕を持って発注するので余って廃棄するパッケージが出やすくなります。また、何種類ものパッケージを作って使い分けるといった工夫もしにくいでしょう。
それを同社では多種類デザイン、小ロット生産に対応することで、消費者に様々なパッケージを届けられる楽しさに加えて、廃棄ロスを減らして環境負荷軽減にも貢献できるという価値を顧客に提案しています。この発案の契機は、地域産業を盛り上げたいというものですが、地域の産業を盛り上げる取り組みを行うこと、更には廃棄ロスを減らして環境負荷軽減に貢献する取り組みそのものが、SDGsのターゲットの価値観とも一致しています。

――まさに、SDGsの取り組みとビジネス機会創出と軌を一にする事例ですね。他の取り組みもなさっているのですか。

山本氏:同社では、SDGs的な観点から「脱ダンボール」も実現しました。これは以前、どの会社でもやっているように、印刷が完了し納品するパッケージフィルムのロールを段ボール箱に入れて顧客に届けていたのを、パッケージフィルムを直接ラッピングフィルムで梱包し、ダンボールを使わずに配送するようにしています。これによって、効率的な荷積みが可能となり、従来は、1回のトラック運送に約7トンの印刷物を積載していたところを10トン分積めるようになったそうです。運送頻度が下がることでCo2排出量の削減につながり、取引先では廃棄物も減ります。当然、いままでかかっていたダンボール代や運送コストの削減にもつながります。これは、SDGsの考え方に基づいた取り組みが費用の削減にもつながった例です。

ラッピング梱包写真

――梱包のダンボールをなくすというのは、なかなか思いつかない発想だと思います。他の企業の例も教えていただけますか。

山本氏:同じ四国ですが、愛媛県松山市の「佐川印刷株式会社」様も積極的なSDGsへの取り組みや発信をなさっている例として有名です。同社では、ダイバーシティ経営に力を入れており、女性が働きやすい工場を追求してきました。IoTをいち早く活用し、自動化・省力化を進め、従業員の女性比率を上げ、役職者にも積極登用するポジティブアクションを実施しています。これはSDGsの本丸である人権に直接結びつくものです。

さらに、どんな人にも情報が正しく伝わりやすいデザインとしての「メディア・ユニバーサルデザイン(MUD)」の制作・普及にも力を入れ、バリアフリーマップの受注などにつなげています。
さらに、宇和島市の工場は、デジタルプリンティングに特化した工場(デジタルプリントファクトリー)として再編し、屋外広告やテキスタイル、壁紙など大判のプリントのオリジナルデザインでの制作を行い、過疎化が進む地域の雇用維持に貢献しています。
また、地域経済の活性化を目指し、地域の漁業の魅力を発信するフリーペーパーや動画配信にも取り組んでいます。

ダイバーシティ経営

バリアフリーマップ

――北四国グラビア印刷様も佐川印刷様も、地域産業振興、地域雇用など、地域経済の活性化に熱心ですが、これもSDGsに関連しているのでしょうか?

山本氏:開発目標8「働きがいも経済成長も」のターゲットには、「雇用創出」や、「地元の文化・産品の販促につながる持続可能な観光業を促進するための政策」といったものが含まれており、地域産業振興は、間違いなくSDGsのターゲットの1つです。
SDGsと聞くと、環境問題や気候変動問題への対策だと思われる方が多いですよね。もちろんそれも重要なテーマですが、実は多くのテーマが含まれているのです。

他にも、日印産連のWebサイトの事例集で、多くの印刷会社の取り組み事例を公開しているので、一度ご覧いただくと、参考になるのではないかと思われます。

SDGs 取り組み事例集 | 日本印刷産業連合会

2. SDGsの基本

――「そもそもSDGsとはなんなのか」というところから、簡単に教えてください。

山本氏:SDGsは、「Sustainable Development Goals」の略で、日本語では持続可能な開発目標といいます。2015年に国連サミットで採択され、2030年までに解決を目指すものとされています。SDGsには、17の目標(ゴール)と、それを達成するための169の項目(ターゲット)が設定されています。

――SDGsは、環境保護が中心テーマなのですか?

山本氏:そういうわけではありません。SDGsの17の目標を大きく分類すると、「人間」「豊かさ」「平和」「パートナーシップ」「地球」の5つになります。環境保護や気候変動対策などのテーマは「地球」に関連しますが、あくまで5つのうちの1要素です。
ではSDGsの土台として共通する理念がなにかといえば、これは「誰ひとり取り残さない」という言葉で示されており、要約すれば「人権」だといえるでしょう。上記の5テーマは、突き詰めればすべて「人権を守る」ということにつながります。

――企業が、環境や人権などの課題に意識的になるということに関しては、SDGsの他に「CSR」や「ESG」といった言葉も目にします。どれもアルファベットで、違いがわかりにくいのですが。

山本氏:いずれも本質にあるのは、「企業は社会の一員であるのだから、社会が持続可能な発展をしていくための役割を果たすべきだ」という考え方です。
CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)は、企業の事業活動の結果(ボトムライン=損益計算書の最終行)が、「経済的利益」だけではなく、「環境への配慮」「社会的対応」においてもプラスであるべきだという「トリプルボトムライン」の考え方が中心となっています。
ESG(Environment:環境、Social:社会、Governance:ガバナンス)は、主に投資家の目線からCSRへのチェックをおこなう切り口だといえるでしょう。一方、SDGsは、国際社会及びそこに働く人達を含めた社会的な要請から見た、CSRへのチェックをおこなう切り口が含まれます。
私達企業が取り組むべきはCSRで、その取り組みに対して、投資家目線でチェックする際のフィルターがESG、国際社会やそこに働く人達の目線でチェックする際のフィルターがSDGsだと理解するとわかりやすいと思います。フィルターは私達企業への期待・要望と読み替えてもよいと思います。
ただし、SDGsのターゲットには、企業に対する要請だけではなく、国や自治体が取り組むべき内容も数多く含まれています。そこがSDGsを少しわかりにくくしている点かもしれません。

3. 印刷業界とSDGs

――持続可能な発展を目指すという考え方は立派だと思うのですが、印刷会社の業務とSDGsはどのような関係性があるのでしょうか。

山本氏:1つには、「リスク対応」という観点から、もう1つには「ビジネス機会創出・企業価値向上」という観点から、SDGsは印刷会社と密接に関係しています。

――リスク対応とは、どういうことでしょうか?

山本氏:SDGs的な観点を欠いていると、例えば、労働法規や環境法規などの法令上の問題を起こしやすくなったり、また、いわゆる「ブラック企業」などという噂が立つと、社会的な評判が落ちたりします。これらのことは、人材採用や定着に悪影響を与えることがあります。
特にZ世代と呼ばれる若い世代は、そういう面に非常に敏感であるため、若手の採用への悪影響は大きいでしょう。

――営業面でのリスク対応にもなるのでしょうか。

山本氏:場合によっては、失注、つまり仕事を失ってしまうようなリスクにもつながります。
有名な話として、1997年に、米国のスポーツメーカーの「ナイキ」が製造を委託していた東南アジアの工場で、児童労働、セクハラ、パワハラ、長時間労働など、人権を無視した劣悪な労働環境が蔓延していることがNGOにより告発された事件があります。ナイキは厳しく批判されて、不買運動が起こり、株価が30%も下落したのです。以後、ナイキはサプライチェーンのすべてを見直して人権侵害がないかチェックし、CMなどでも人権を尊重するメッセージを出すなど人権先進企業になりました。

この事件のポイントは、ナイキ自身が東南アジアでの劣悪な労働環境を指揮していたわけではなく、あくまで委託していたサプライヤーがそれをおこなっていたという点です。しかし、サプライチェーンの内部で生じた事態に対して、「委託会社がやったことだから知りません」という言い訳は通用しないのです。
印刷会社は、取引先企業から発注を受けて印刷物を制作しますよね。もし、印刷会社がSDGsを無視した経営をしていれば、サプライチェーンにおけるリスクを恐れる発注元から、取引を絞られたり、停止されたりする恐れがあるということです。具体的に「CSR調達基準」「SDGs調達基準」といった基準を定め、サプライヤーをチェックする動きはすでに広がっています。
逆にいえば、あらかじめ自主的・主体的にSDGs的な観点を導入した対応をしておくことがリスク対応になるということです。

――もう1つの、SDGsによる印刷会社様での「ビジネス機会創出・企業価値向上」とは、どういうことでしょうか。

山本氏:この観点はさらにいくつかに細分化できますが、まず、直接的にSDGsに取り組んでいることにより新規受注をしやすくなるという点があります。
上の調達基準の話と少し似ていますが、自治体の入札などでは、SDGsに取り組んでいる企業から優先的に指名入札するというところも増えています。SDGsに取り組むことで受注獲得の可能性が上がるということです。
また、取引先のSDGsに貢献できるような商品、サービスの提案、あるいは、取引先と印刷会社が共同で取り組むことでSDGsに貢献できるような施策を提案して、受注するということもあります。例えば、印刷会社のサプライチェーンにおいて、Co2排出をゼロにすることができれば、取引先の炭素排出量削減に貢献できます。これを印刷における付加価値とすることができます。
さらに、売上面ではなく、費用削減の面でもSDGsへの取り組みが効果をもたらすことがあります。例えば、SDGs的な観点から排出物を減らす取り組みを通じて販管費が削減されれば、利益を増大させます。それは結果的に企業価値向上に結びつくでしょう。

4. 「SDGsターゲットマッピングリスト」をヒントに、具体的な取り組みを

――SDGsには、17のゴールに169ものターゲットが設定されています。非常に数が多いため、これからSDGsに取り組もうという印刷会社がどこに着目して、なにから取り組めばいいのか、正直迷ってしまう面もあると思います。

山本氏:おっしゃる通りです。そのため、私たち日印産連では印刷業界向けの「SDGsターゲットマッピングリスト」というリストを作成しました。

これは、SDGsの169ターゲットのうち約100のターゲットについて、印刷会社ではどういう取り組みが考えられるかを、「ビジネス機会の創出・価値向上」「リスク対応」とに分けて、具体的に記している、いわば「SDGs取り組みヒント集」です。

例えば、ゴール3「すべての人に健康と福祉を」のターゲット3.9「2030年までに、有害化学物質、ならびに大気、水質および土壌の汚染による死亡および病気の件数を大幅に減少させる」の項目を見てみましょう。
「ビジネス機会の創出・価値向上」の取り組み例としては、「日印産連のGP工場認定を取得し、化学物質等に関する総合的な環境対策を行っている。」が挙げられています。
究極的には、環境マネジメント認定の国際規格であるISO14000ファミリーを取得できれば、大企業レベルの環境マネジメントを実施している証明となります。しかし、ISO14000ファミリーを取得、維持することは中小企業にとっては大きな負担です。そこで、比較的低コストで取得、維持できる認定制度として日印産連が主導して制定した認定制度がGP(グリーンプリンティング)認定制度です。
GP認定を取得することにより、厳しいESG監査が求められる上場企業や自治体からの、循環型社会形成推進法およびグリーン購入法に基づいた印刷製品の調達において、サプライチェーンを通じたSDGsの実現に寄与できることを証明でき、新規受注の開拓につながります。

また、「リスク対応」の取り組み例としては、「大気汚染防止法、水質汚濁防止法、土壌汚染対策法及び関連法令の規定を遵守するとともに、環境事故の未然防止に努めている。」と記されています。
例えば、印刷用インクに、揮発性有機化合物(VOC)を含まないノンVOCインクを利用して、環境に放出される有機化合物を削減するといった対応が代表的なものです。

SDGs ターゲットマッピングリスト

SDGs ターゲットマッピングリスト | 日本印刷産業連合会

この「SDGsターゲットマッピングリスト」を一通りご覧いただき、自社で関心を持てそうな、または取り組みやすそうなターゲットがあれば、そこから着手していただくことがよいでしょう。

――マップにある「ビジネス機会の創出・価値向上」と「リスク対応」とでは、どちらから取り組むのがいいのでしょうか。

山本氏:まずは、「リスク対応」を確認してください。「リスク対応」については、多くの印刷会社ですでに対応済みの項目が大半かもしれません。しかし、もし未対応の項目があれば、早急に対応したほうがいいでしょう。

――社内での取り組み方としては、どのように取り組むのがよいのでしょうか。

山本氏:大企業であればトップが命令して、トップダウンでやるのがいいでしょう。しかし、中小・中堅企業であれば、もともとの社風にもよりますが、やる気のある若手にSDGs担当者を任命して、担当者中心に、現場からのボトムアップを目指して取り組む体制や雰囲気を作ったほうが効果的なことが多いと思います。
あまり肩肘張らずに、面白そうだから新しいことをやってみようといった感じで取り組める環境を、用意してあげることがポイントです。

5. おわりに

いかがでしたでしょうか。SDGsの基礎から印刷会社のSDGs取り組み事例、また、印刷会社様がSDGsに着手するためのヒントなどについて、一般社団法人日本印刷産業連合会のサステナビリティー推進部部長・山本正己氏にうかがいました。

Print Compassでは前述の「SDGsターゲットマッピングリスト」の上手な活用方法や、実際にSDGsへの取り組みを進めていく手順がわかる『印刷会社のためのSDGsスタートガイド』を無料配布中です。
ぜひダウンロードいただきSDGs取り組みへの第一歩を踏み出しましょう!

「ビジネス機会の創出・価値向上」と「リスク対応」で取り組む 印刷会社のための、SDGsスタートガイド

「ビジネス機会の創出・価値向上」と「リスク対応」で取り組む 印刷会社のための、SDGsスタートガイド

また、リコージャパンでは印刷会社様のSDGsに繋がる印刷商材のヒントやビジネスアイデアをご紹介していますのでこちらも是非ご参考にしてみてください!

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